温度制御はポピュラーな制御の一つ
自動制御,聞きなれない響きである。しかし,ADAPTEX社の業務の根幹でもある。この記事では,ADAPTEX社の自動制御とは何かについて説明する。また自動制御の前に,その理解を助けるためにまず手動制御の説明を行う。
お風呂のお湯の温度を制御することを考える。もしお湯を40℃に保ちたいとすると,今の温度が35℃であればお湯の蛇口を,45℃であれば水の蛇口をひねるだろう。また,この時今の温度はお湯に温度計を浮かべて測るだろう。
これらの動作を一連の流れとして説明すると,以下のようになる。
① 目標の温度を決める
② 温度を測る
③ 目標の温度と今の温度の差を考える。
④ ひねる蛇口とどれだけひねるかを決める。
⑤ ➁に戻る。
これを,人間が手動で制御していることから「手動制御」と呼ぶ。
大きな化学プラントも制御の対象だ
次に,ADAPTEX社が高度化に取り組んでいる自動制御について説明する。
自動制御は簡単に言えば手動制御をすべて機械にやらせたものである。さきほどの流れを自動でやるには3つ必要なものがある。1つめはお湯の温度を測定して電気信号にするセンサ,2つめは温度の情報からどの蛇口をどれだけひねるか考えるコンピュータ,3つめは蛇口をひねる機構となる。
自動制御の性能を上げるためにはこれらのすべてをよくする必要があるが,十分に正確なセンサとコンピュータの指令に従って動作できる機構があればもっともコンピュータの中の動きをどのようにするかが重要となる。
ここで,自動制御の高度化を行った例として加熱炉について紹介する。加熱炉は、さまざまな原料や半製品を加熱するための機械である。温度は高いものになれば800℃を超えるようなものもある。製鉄などは1000℃をゆうに超える。このときよく問題となるのが、加熱炉内の酸素濃度だ。当たり前だが、酸素濃度がゼロになれば火が消えてしまい、不完全燃焼が生じ、爆発が起こる。逆に、酸素濃度が高ければ、その分余計に燃料を消費するのだ。
多くの企業では安全のために、燃料を無駄にしてでも、酸素濃度を高く保っている。この原因は、時間とともに加熱炉内の酸素濃度が変化するからである。酸素濃度をリアルタイムで、コンピュータで計測しながら、適切な空気量を加熱炉に送り込むのだが、これがうまく制御できていないと、加熱炉内の酸素濃度が大きく上下する。大きく上下するから、安全のために多めの空気を送り込むという図式になっている。
ADAPTEX社は、特にこの加熱炉の制御を高性能化するプロなのだ。独自の制御アルゴリズムで、台風が来ようが、大雨が降ろうが、安定的に加熱炉内の酸素濃度を均一に保つことを実現できる。国内最大手の石油会社や化学会社の加熱炉を何十基も手がけている。この酸素濃度が振れなくなると、最小限の酸素濃度で、最小限の燃料消費で済む。また安全性も向上するわけだ。加熱炉はとてつもなく大きい装置なので、その燃料消費削減額も相当大きい。
ADAPTEX社は、このように省エネ化を制御の高性能化を通じて実現しており、世界的な課題である温室効果ガス削減にも大きく貢献している。
今回話を聞いた、技術企画推進部サービスチーム主任 大西さんの一日のスケジュールは以下のようなものだった。
8:40 出社
9:00 業務開始、会議準備
10:00 社内会議(データレビュー報告、改善提案検討等)
12:00 昼休憩(JICA中国にて昼食)
13:00 外出準備
13:30 東広島➝水島へ移動
15:00 お客様と打ち合わせ(データ解析状況の報告、スケジュール確認等)
17:00 水島➝東広島へ移動、帰社
19:00 退社
業務の始まる9時の20分前に会社に到着し,コーヒーを淹れる,前日を振り返る,など仕事の準備を始める。
9時ごろに主にメールチェックから仕事を始める。この日は10時から社内での打ち合わせがあり,時間が中途半端に余るので,事務書類の作成などを40分ほどした後に,印刷物やプロジェクターの準備をした。
10時からの打ち合わせでは、石油化学会社で行った課題のヒアリング内容と設備概略図やデータを見ながらどのような改善提案ができるかを話し合った。
打ち合わせが終わり、12時から昼休憩をとった。昼食は社員それぞれの形でとるが、この日は同僚と外食だった。
13時から仕事を再開するも、この日は15時からお客様との打ち合わせがあったので,13時30分には会社を出て岡山県の水島へ向かった。2時間ほど打ち合わせを行いその後帰社すると,18時30分を回っていた。
出張の時には少し終業の時間を越えることもあるが、18時に終業するというのが基本で,業務時間は8時間である。
国内や海外へ出張することも多い
ADAPTEX社は関東のお客さんが多いこともあり、丸一日出張になることが多いそうで、その時の話を伺った。
9時に羽田空港へ到着するように広島空港を最初の便で出発し、羽田到着後、10時から打ち合わせを行うため、リムジンバスでお台場(フジテレビ前で天気予報を届ける「天達武史(アマタツ)」も見かけるそうだ)に移動した。
2時間ほど、受注した案件についての打ち合わせをした後に、昼食をとって次のお客様のもとへと千葉方面へ移動した。そこでは営業を兼ねてお客様の省エネの取り組み状況などについて打ち合わせを1時間程度した。
次に15時の打ち合わせに向けて再び都内へ移動した。そこでは実施した業務の成果報告書を持参し納品するとともに、改めて報告書の内容について説明を行った。
技術を分かりやすく説明することは重要だ
タイムスケジュールからもわかるが,一人が会社の核となる技術の研究から顧客との打ち合わせ,実際の制御を適用するところまで担当する。
一般的に大きな企業では研究職,開発職,営業職など分かれていることが多い。この場合,例えば研究職であれば自分の業務がどのように製品と結びついているかを実感する機会が少ない。逆に営業職であれば研究や開発にかかわらないことから知識が不足している場合があったり,売る意識が真っ先に立つことで自分が社会に貢献しているという意識が得にくいということがある。
ADAPTEX社においては最初から最後まで担当することができるので,総合的な知識が身につく上に相手の会社やひいては社会に貢献しているという思いを得ることができる。
小比賀社長が2012年のアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパンでセミファイナリストに
2005年1月21日,広島大学発ベンチャーとして設立し,発起人は広島大学の山本透教授ら4人。
2006年,自動制御についての世界初の技術を確立した。これはうまく制御できているかの評価と制御をよくする設計法を組み合わせたものである。
2010年,制御の改善による省エネルギー化サービスで広島ベンチャー大賞受賞。それまでの製品を売り切る形から顧客の課題を一緒に解決するスタイルへ転換。
2011年,専門的な教育を主とした海外事業を開始。
2012年,小比賀社長がアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパンにおいてセミファイナリストとなる。これは起業家の努力と功績を称える表彰制度である。
2013年,ビッグデータ解析サービスを開始し、物流を最適化する技術の研究が三菱UFJ技術育成財団の助成金交付に採択。
2015年、JICAの事業にも採択され、本格的な海外展開が始まった。
海外のお客様との打ち合わせも
ADAPTEX社が将来目指すヴィジョンを小比賀社長にお聞きした。
ADAPTEX社は起業して12年経過し,徐々に日本国内では知名度が向上してきてはいる。しかし,マーケット全体から見るとまだまだ認知度が十分でないそうだ。そこで,これからは日本国内を中心にマーケットの拡大を図りつつ,海外にも積極的に展開していく予定である。世界的な課題であるCO2削減は,日本よりもむしろ発展目覚しい途上国で展開することの意義が大きいのだ。
「10年後にはこの業界で『世界のADAPTEX』と呼ばれるように全力で進んでいく」との頼もしい言葉をいただいた。